ビジネス事例で学ぶ「戦略思考クイズ」2(セブンイレブンの四国進出)

はじめに

現代社会は、複雑で変化の激しい時代です。またグローバル化の進展や技術革新の加速により、企業を取り巻く環境は日々変化しています。

 このような環境下で企業が生き残るためには、常に変化に対応し、柔軟な経営を行う必要があります。今回は、現代ビジネスマンにとって必須となりつつある「戦略思考スキル」について、ビジネスシーンで実際にあった事例クイズを解きながらトレーニングしていきましょう!

今回は、四国のコンビニフランチャイジーの社長がセブンイレブンの四国進出の際に採った戦略を紹介します。

事例問題:フランチャイジー社長の決断

セブンイレブンはドミナント戦略といってある地域に徹底的に出店し、そこで市場を制覇したら、その後に次の地域に移るという出展戦略を用いています。そのセブンイレブンが2013年、いよいよ四国に上陸することになった時の話です。

 困ったのは業界下位のコンビニに属するメガフランチャイジーの社長。四国で100店舗を超えるコンビニを経営しているのですが、セブンイレブンが上陸したらひとたまりもない。

 そこで社長が考えた秘策とは何だったでしょう?

問題のヒント

孫子の兵法にもこの戦い方は記されています。

正解:セブンイレブンに鞍替えする

四国にセブンイレブンが進出すると発表した時点で、四国にはローソンの422店を筆頭に1200店のコンビニがひしめいていました。そこに新たにセブンイレブンが数百店舗増えたら小さなコンビニチェーンはひとたまりもありません。しかし自分がセブンイレブンになってしまえば競争相手も増えないし生き残れる確率はずっと高めると考えたのです。

 実際は、「そうなっては困る」と現在契約しているコンビニ本部に契約違反で訴えられて裁判になりました。訴訟と聞くとやってはいけないことに思えるかもしれないけれど、会社がつぶれるという最悪の懸念と比較すれば裁判で負けて賠償金を払わねばならないというリスクの方が小さいわけです。相手に訴えられることを敢えて選ぶというのも戦略判断のひとつなのです。

解説:最高の戦略とは戦わないこと

孫子の兵法「謀攻編」に以下の一節があります。

孫子曰く、およそ用兵の方は、

国を全うする上となし、国を破るはこれに次ぐ。

軍を全うするを上となし、軍を破るはこれに次ぐ。

旅を全うするを上となし、旅を破るはこれに次ぐ。

卒を全うするを上となし、卒を破るはこれに次ぐ。

伍を全うするを上となし、伍を破るはこれに次ぐ

この故に百戦百勝は、善の善なる者に非ざるなり。

戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。

故に上兵は謀を伐ち、その次は交を伐ち、

そのつぎは兵を伐ち、その下は城を攻む。

(現代語訳)

孫子は言う。およそ軍隊を運用する際の原則は、敵国を保全したまま勝利するのを最上の策とし、敵国を撃破して勝利するのは次善の策である。敵の軍団(周の時代の軍隊編成によれば、一軍は一万二千五百人)を保全したまま勝利するのが最上の策であり、敵の軍団を撃破して勝利するのは次善の策である。敵の旅団(五百人編成の部隊)を保全したまま勝利するのが最上の策であり、敵の旅団を撃破して勝利するのは次善の策である。敵の卒(百人編成の部隊)を保全したまま勝利するのが最上の策であり、敵の卒を撃破して勝利するのは次善の策である。敵の伍(軍の最小単位、五人からなる)を保全したまま勝利するのが最上の策であり、敵の伍を撃破して勝利するのは次善の策である。

これゆえ、百戦して百勝するというのは最善の方策ではない。戦闘を行わずに敵の兵力を屈服させるというのが最善の方策である。

だから、最上の軍隊のあり方というのは、敵の謀略を見抜いてそれを未然に打ち破ることであり、その次は、敵国との外交関係を分断することであり、その次は、敵の野戦軍を撃破することであり、最も下手なのは、敵の城を攻撃することである。

(解説)

今回のケースにおいては、セブンイレブンとしては、戦わずして敵を屈服させるのに成功した上で、敵の兵力をそのまま自社の兵力にすることができた訳ですから最高の勝利と言ってよいでしょう。

一方、四国のフランチャイジーの社長の方はどうでしょう。こちらも自身の兵力を保全したまま、上手に倒産の危機を回避した訳ですからこちらも勝利したといってよいでしょう。

実際に、現代ビジネスシーンにおいては、このような企業戦略は数多く見られます。

 M&A戦略がそれにあたります。今回のケースの場合、セブンイレブン側が積極的にM&Aを仕掛けた訳ではないので若干違いますが、市場で、実際に戦って互いに消耗するよりは、資本の力を使って吸収合併するのがM&A。四国のフランチャイジー社長は、戦いに敗れて倒産するよりは、吸収される(今回は傘下に入る)ことによって自社の経営資源の損耗を防ぐことができた訳ですから、ある意味では、Win-Winの戦略と言えるのではないでしょうか。

引用・参考文献

今回紹介した戦略思考クイズは、「戦略思考トレーニング 最強経済クイズ【精選版】」(日本経済新聞出版)から引用・出題しました。本書には、その他にも、実際のビジネス戦略をテーマにしたクイズが沢山掲載されています。戦略思考スキルを鍛えたいと思う方は、一度ご覧になってはいかがでしょうか。

また、今回の解説欄で紹介した孫子につきましては、さまざまな解説本・ビジネス書が出版されています。私も何冊か手にとりましたが、その中でも「孫子・三十六計」(角川ソフィア文庫)が、コンパクトな解説で、全文をくまなく紹介しているのでオススメです。

<補足>

 当サイトでは、この他にも戦略思考クイズ問題を紹介しています。興味のある方は、是非こちらの記事も御覧ください。

Follow me!